【書評】マーケット感覚を身につけよう - 「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法(ちきりん)
この本を初めて読んだのは2年以上前になるが、折に触れて読み返すので、振り返りも含めて書評を書こうと思う。売れるサービスを創るための指針になりそう。
マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (26件) を見る
マーケット感覚とは
まず、本書のメインテーマである「マーケット感覚」とは何か、まとめてみよう。
- 「売れるものに気がつく能力」であり「価値を認識する能力」
- 商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力
- 顧客が、市場で取引する場面を、直感的に思い浮かべられる能力
- 市場のニーズを読む力
- マーケティングの細かいノウハウではありません
- 社会や人が動く根源的な仕組みを理解する能力がマーケット感覚で、その仕組みを活かして、何らかの目的を達成するための方法がマーケティング
- 身の回りの市場を見たときに、そこで取引されている価値は何なのか。それを理解できる能力=マーケット感覚
- 市場と向き合う経験から得られる、市場に対する嗅覚や根源的な理解力です。その嗅覚の中心が、本章で説明する「価値を見極める能力」なのです
端的に言えば、マーケット感覚とは、価値を認識する能力だと言える。これは、今まで「価値がある」と思われていなかった「モノ」や「コト」が、捉え方や使い方次第では、特定の誰かにとって「価値がある」、すなわち「お金を払っても良い」と思われるということだろう。
ここで言う価値は、「マーケット(=市場)」にて交換される。本書では「マーケット」についても定義しており、
不特定多数の買い手(需要者)と不特定多数の売り手(供給者)が、
お互いのニーズを満たしてくれる相手とマッチングされ、
価値を交換する場所
と記述している。
あえて取り上げるまでもないが、1つの分かりやすい例は、airbnbが提供する「家の空きスペース」であろう。airbnbが誕生するまでは、まさか自分の家の空き部屋に全く知らない他人を泊めて、対価としてのお金を受け取れるようになるとは誰も予想していなかったはずだ。
さらに、市場の構造を理解するための要素として、以下の4つを挙げている。
- 取引される価値
- 買い手=需要者(価値を入手する人)
- 売り手=供給者(価値を提供する人)
- 取引条件(価格など)
airbnbの例で言えば、「取引される価値」は、物理的な観点から見れば「家の空いたスペース」だが、同社はホストとゲストの交流から生まれる「文化の共有を通じた体験」に重きを置いているようにみえる。
なお、価値の分解については、論理的思考アプローチとマーケット感覚を使う思考の2つを挙げているが、マーケット感覚を使うことで、価値の深掘りがずっと容易になると本書では述べている。
どんな価値が、誰と誰の間で取引されるのか?
多面的な価値を認識するためのヒントは、マーケットの構造の読み解き方にある。本書では、「市場の動きを理解し、予測・利用するための要素」として、
- 買い手と売り手が取引する動機
- それぞれの要素に起こりうる今後の変化
- 市場の中で選ばれるための方法
という3つを挙げている。これらを理解するためは、定量的な市場調査だけでは不十分であり、売り手と買い手のリアルな感情や行動を把握しなければならないだろう。必ずしもこれらのプレイヤーが答えを教えてくれる訳ではないだろうから、これらの調査から、「何が価値になるのか」をイメージしていくのだ。
また、価値を見極めることの重要性については、以下のように念押ししている。
- マーケット感覚の中で最も重要なのは、市場で取引されている価値について正確に見極める力
- マーケット感覚を鍛えることのメリットは、こういった「非伝統的な価値」についても、「これなら、お金を払ってでも手に入れたいと考える人がきっといる。これは大きな価値だ!」と早々に気がつけることです。
- もともと存在していたモノの中に、新たな価値が見いだされ、巨大な市場になったものがたくさんあるということです。それらを市場として大きく育てたのは、最初にモノや制度を作った人ではありません。途中で、その潜在的な価値に気づいた人なのです。そしてこの「潜在的な価値に気づく能力」こそがマーケット感覚です。
マーケット感覚を鍛える5つの方法
では、マーケット感覚はどのようにして身につけられるのか?本書では、以下の5つを挙げている。
- プライシング能力を身につける
- インセンティブシステムを理解する
- 市場に評価される方法を学ぶ
- 失敗と成功の関係を理解する
- 市場性の高い環境に身を置く
この中で特に大事だとしているのが、1. プライシング能力を身につける だ。値札や相場といった情報に踊らされることなく、自分独自の判断基準を持つことで、自分にとって何が価値であり、また何が価値でないかを理解できるようになり、そこからどんな人にとってどんな価値になるのか、と考えられるようになるということである。
考察
ちきりん女史の言う「マーケット感覚」の核となる部分は、マーケティング界の巨人セオドア・レビットの論文「マーケティング近視眼」に相通ずると思う。
wikipediaでは、以下のように説明している。
- マーケティング近視眼とは、目の前で起きる事象ばかりに捉われてしまうことを指し、本来するべきである”マーケティング活動”を狭く解釈してしまうことを意味します。
- 企業が商品を販売するにあたって、その商品の機能のみに着眼してしまうと自らの使命を狭く定義することになり、そのような方法では競合や環境変化が起これば対応しきれないことを説明している。
- 顧客は商品を買うのではない。その商品が提供するベネフィットを購入しているのだ。
- ベネフィットとは、顧客が製品やサービスを購買・使用することによって得られる価値、成果、効用のこと。
レビットが言う「ベネフィット」とは、ちきりん女史が言う「価値」とほぼ同義だと言ってよいだろう。では、なぜちきりん女史は、数十年前からその重要性を指摘されている「ベネフィット=価値」に改めて焦点を当てているのだろうか?それは、地理的・時間的制約を越えるインターネットが普及したことによって、様々な取引が「市場化」され、価値の多様化、価値の流通が急激に加速したことの重要性を強調すべきだと考えたからであろう。
また、本書では、キャリア形成においてもマーケット感覚を持つべきだと説いている。これは、転職サイトに登録するというような方法でも良いだろうし、個人的には、
日本最大級のスポットコンサル|ビザスク などのスポットコンサルや、TimeTicket[タイムチケット]やココナラ - みんなの得意を売り買い スキルのフリーマーケットのようなCtoCのスキルシェアサービスに登録してみると良いと思う。自分のどんなスキルが誰にとって価値になるのかが体験できるからだ。
個人のキャリアとしても、ビジネスのサービス企画としても、とても参考になる本である。
マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法