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弁理士に教えてもらった、事業で役立つ特許の出願方法 & 公開情報を調べる方法

先日、業務の関係で特許の出願方法について調べる必要があり、弁理士に相談に行く機会があった。弁理士の先生に相談するまでは、特許や商標に関する事前知識はほとんどなかったのだが、お話を伺うなかで目から鱗の内容がとても多かったというのが率直な感想だ。

特許や商標に関する知識がない企業は、経営上の大きなリスクになり得る。一部の大企業のように知財部がしっかりしている企業ならともかく、ベンチャー企業にとっては知財分野は「落とし穴」になり兼ねないと思い、備忘録も兼ねて、オープンにできる範囲で共有できればと思う。

*弁理士の話を元に、僕なりに解釈した上で記載しているが、正確性は保証できない旨ご了承いただきたい。また、内容の間違いについては、コメント等でご指摘いただけると幸いだ。

そもそも特許とは何であって、何が特許ではないのか? 

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特許とは何か?

特許とはどのような概念であるのかについて、まずは原典である特許法および特許庁の解説に目を通しておこう。分かりやすいので、ぜひご一読いただきたい。

www.jpo.go.jp

ここには、以下のように記載されている。

特許法第1条には、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。

まず、特許とは何らかの発明を行う必要があり、それが発明者の権利として(一定期間)、特許法に基づき保護されるわけだ。

では、どのようなものが発明とみなされる、すなわち特許として保護の対象となるのだろうか?特許庁のHPには、以下のように記載がある。(※太字は筆者)

特許法第2条に規定される発明、すなわち、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを保護の対象とします。

ここで、大事なポイント、すなわち特許としての要件が3点登場したのが分かるだろうか。「自然法則の利用」「技術的思想の創作」「高度なもの」という3点だ。

上記それぞれの要件に合致する概念が何であるかに言及することは難しい。その場合は、逆の発想で「何が特許の要件を満たさないか?」を検討したい。そうすることで、それ以外は特許である、言えるようになるためだ。

何が特許ではないのか?

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特許庁のHPには、特許ではない概念として、以下の3点を挙げている。(※太字は筆者)

  •  自然法則の利用でない

したがって、金融保険制度・課税方法などの人為的な取り決めや計算方法・暗号など自然法則の利用がないものは保護の対象とはなりません。 

たとえば、「ピザを10分で届けます!」というサービスそれ自体は、特許にならない。それは、人為的な取り決めであるためだ。

また、計算方法や暗号それ自体は、自然法則の利用がないため、特許にならないことにも留意したい。

なお、自然法則の利用について、「自然界の体験を通じた」〜〜

  • 技術的思想の創作ではない

また、技術的思想の創作ですから、発見そのもの(例えば、ニュートンの万有引力の法則の発見)は保護の対象とはなりません。

上記のピザの宅配の例で言えば、10分で届けることを実現するソフトウェアやアルゴリズム等は、技術的な思想の創作に合致するとして、特許として認められる可能性がある。

この点で言えば、既存の技術の組み合わせだけであれば、特許にはなり得ないので注意が必要だ。

  • 高度なものではない

さらに、この創作は、高度のものである必要があり、技術水準の低い創作は保護されません。

高度の基準はやや曖昧ではあるが、誰でも簡単に創作できてしまうようなものは特許として権利を保護するに値しないということだろう。 

特許出願の実務上重要な点は、特許法で権利が守られる対象は、「技術的思想の創作」であるという点だ。つまり、何らかの新しいソフトウェアやアルゴリズム等の開発、設計が必要なのである。

また、特許申請にあたり、必ずしも現時点でサービスやプロダクトがリリースされている必要はない。実際にその技術を使うか使わないかは、特許の要件ではないのだ。その時点では企画段階だとしても、特許の申請を行い、特許を取得することは可能なのである。

それでは、ビジネスモデルは特許を取得できるのだろうか?ビジネスモデル特許という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれない。この点について、声を大にして(タグをH2タグにしてw)お伝えしたいが、

ビジネスモデル特許というものは存在しない

ということである。ビジネスモデル自体が特許の対象となるのではなく、その中の技術的要素が絡んでくる部分が特許として保護され得るのである。そのため、往々にして特許は狭い範囲になる場合が多いのだ。

例えば、名刺情報管理サービスを運営するsansanは、名刺情報を効率よく並べる技術で特許を取得している。しかし、そんなことは特許の中身を確認しないと外見上は分からない。

すなわち、サービスのごく一部の範囲で特許が取得されていたとしても、「特許出願中」などと記載していれば、他社は迂闊に模倣して類似サービスを作ることができず、またユーザーからは何やらすごい技術を用いているのではないか、とアピール効果が期待できるのだ。

他社の特許の確認の仕方

さて、自社で新サービスをリリースする際に、特許出願しておきたい場合があるだろう。その際に、その技術が既に特許として認められているかを確認しておきたいはずだ。その確認方法についてお伝えしたい。 

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で検索する

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特許情報プラットフォーム(英語名:Japan Platform for Patent Information、略称:J-PlatPat)は、特許庁の外郭団体である独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する、特許情報検索サービスだ。1億件以上の特許権・意匠権等の権利の閲覧が可能な、便利なサービスである。

検索の仕方は、以下の通り。

・特許・実用新案カテゴリー → 2. 特許・実用新案検索

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ページ下の方の「検索キーワード」に、検索したいキーワードを入れよう。自身の特許候補に関連しそうなキーワードなどが良いだろう。

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また、検索結果が1,000件を超えると中身を表示されなくなってしまう。その場合は、複数のキーワードを入力し、検索方式をORからANDに変更してみると良い。

うまく検索がヒットすると、検索結果一覧に特許がリスト化される画面に遷移するはずだ。項番、出願番号、文献番号、出願日、公知日、登録日、発明の名称、出願人、FIという項目が出てくるだろう。

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「人材 採用」での検索結果

気になるタイトルの特許があれば、まずは要約を読んでみよう。ここでその特許の概要が分かるので、自身の特許候補の内容と関連がなければ、読み飛ばしまえば良い。

その下の特許請求の範囲は、特許として保護される権利部分だ。そして、自身の発明と関連する特許があれば、詳細を確認してみよう。

主に、「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」図面の簡単な説明」と言った項目で整理されていることが多い。

特許出願中とはどういう状態なのか?特許取得までのプロセス解説

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なお、よく見かける「特許出願中」についても説明しておこう。特許取得のプロセスは、大きく3つに分かれている。

  1. 特許出願(特許申請)中
  2. 特許査定の完了
  3. 特許権の取得

順番に見ていこう。

1. 特許出願中

特許出願中とは、自身の特許取得になり得ると思われる技術的思想の創作の内容を、書類にまとめて、特許庁に申請した状態だ。

大企業であれば、知財部の担当者が書類を作成し、弁理士を通じて申請するパターンが多いだろう。ベンチャー企業は、発明した担当者が直接弁理士とコミュニケーションをとる場合が多いかもしれない。

この段階ではまだ特許とは認められておらず、あくまでも特許庁による審査中の状態であるが、出願してから1年6ヶ月後に、特許候補として出願内容が公開されるのだ。 

2. 特許査定の完了

特許を出願してから、3年以内に審査請求を行わなければならない。もし3年以内に出願しなければ、その特許候補は特許を取得することができなくなってしまう。

もちろん、出願したからといって必ずしも審査が通るわけではなく、特許として認められない場合もある。

3. 特許権の取得

特許庁による審査が完了した状態でもまだ特許権は取得できていない。審査が完了したら、特許料の納付を行うことで、ようやく特許権の取得となる。 

なお、出願してから1年半後に申請内容が公開されるが、その後に別の者が出願部分を利用して新たに出願した場合でも、特許としては認められない。特許権は、あくまでも発明する人を尊重しているのだ。 

ぜひ特許を作ってみよう

これまで見てきたように、特許出願とは、競合他社にとっては脅威となり、また見込み顧客に対しては優れたサービスだというアピールになり得る。そのため「自然法則の利用」「技術的思想の創作」「高度なもの」という3点を満たしそうな発明があれば、ぜひ積極的に特許申請を行っていきたい。

また、特許そのものが収益を生むビジネスになるかどうかは分からないので、とりあえず出願してみて、3年後にビジネスになりそうであれば審査請求すれば良い、という考え方もできる。 

ゲーム会社や電機メーカーなど、特許戦略を重視している企業によっては、特許申請につき数万円のインセンティブが支払われる場合もあるだろう。

余談だが、ゲーム会社でプランナーをしている友人に聞いた話では、ゲーム業界は特許争いが凄まじいらしく、あらゆるところに時限爆弾のように特許が仕込まれているとのこと。たとえば、ゲームのロード中にミニゲームなど動かす技術、beat maniaのように叩く場所と音が連動する技術などなど…。気になる技術があれば、一度特許情報プラットフォームをのぞいてみると、新しい発見があるかもしれない。

 

特許に関する本はたくさん出版されているので、興味をもち始めた方には、楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)がオススメだ。特許の全体像が、具体的な事例とともに分かりやすく説明されている。

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

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