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「求人ってウソつきの業界」とは一概には言えない。


Startup Asia Tokyo 2014でのビズリーチ南社長の講演内容の編集記事を読んだ。タイトルは「求人ってウソつきの業界ですね」である。編集に悪意を感じる部分も多々あるが、それを差し引いても、人材業界に携わる者として「ウソつき」呼ばわりされるのは解せないので、記事への反論を3つだけ述べたいと思う。


①ダイレクトリクルーティングは万能ではない

記事中には、「日本の採用が非効率でコストが高い理由の1つは、昔ながらの『ウソつき』な求人業界にあった」とあり、エージェントがブラックボックスであるために採用が非効率だったので、ダイレクトリクルーティングを広めたい。海外でも既に広まってます。という主旨を展開している。

たしかに、ダイレクトリクルーティングは、採用を効率的にする。どの業界においても、ITは仲介業者を、いずれ、限りなく不要にすると僕も思っている。しかし、それはダイレクトリクルーティングが万能であることを意味するものではない。

たとえば、仮にすべての企業がダイレクトリクルーティングで採用し始めた状況を想像してほしい。ビズリーチのプラットフォームに登録している候補者宛に、無数の企業からのメールが飛び交うことになる。候補者にしてみれば、選択肢が多すぎて、選ぼうにも選べない状況であることは想像に難くない。従来の求人広告での採用と何が違うと言えるのか?

また、某大手プラットフォーム事業会社の採用リーダーの方は、「ダイレクトリクルーティングでの採用の割合は、せいぜい3〜4割に留めたい。」とおっしゃっていた。理由は「日本では、文化的に企業が直接候補者にアプローチする形式のダイレクトリクルーティングが馴染まず、たとえば一度候補者をお見送り(=NG)にした後で、よりフィットするポジションがオープンになった場合に、再度お声がけすることに抵抗を感じる」とのことだった。このような、候補者へのアプローチの仕方やNG連絡などの微妙なニュアンスを伝えたり、また候補者の今後の可能性を繋げることは、間に入る存在がいた方が上手く物事が進むのではないか。

いずれにしても、ダイレクトリクルーティングは採用の有効な手段の1つではあるが、それだけで完結させることが効率的だとは言えないだろう。


②エージェントは、ウソつき・ブラックボックスなのか?

南氏は「市場原理にまかせず自分の案件だけで成立させるのが人材業界の望んでいることだ。」と言う。これはたしかに、否定できない。エージェントは営業マンであり、自分の売上を上げるためには自社の案件で採用決定に結びつけなければならない。

しかし、そんなことは候補者も当然分かっている。大手総合系のエージェントを1社、加えて専門特化した小規模のエージェントを複数社活用することが、転職活用を上手く進めるためのデファクトスタンダードであり、その中でどのエージェントなら信頼できるか、どの案件にどのルートでアプライするかを決めるのは候補者だ。何もウソはついていない。自社にない案件はない、それだけの話である(もちろん候補者ありきで案件獲得の動きを行う場合も多々あるが)。

ただ、我々エージェントは、候補者の人となりを理解し、レジュメでは見えない全人格的な部分をクライアントに「推す」ことで、双方の接点を創ることが出来る。その結果、場合によってはクライアントにポジションを創って頂くこともある。間に入る者が、双方を良く知っているからこそ出来ることだ。南氏の言う「市場原理」とは、効率的で機械的なレジュメ上でのマッチングを指しているのではないか。


③「二枚舌外交」はやめるべきだ

最も解せないポイントでもあるが、南氏はビズリーチ社主催のヘッドハンターサミットなどでエージェントを前にすると、「プロフェッショナルの皆さんのお陰様で、今期も会員数、決定数は伸びています。皆さんは欠かせない重要なパートナーです。」などとスピーチされているが、自社サービスの新規性を強調する際にはエージェントを貶める姿勢は、プロフェッショナルとして如何なものか。ビズリーチ社にとってエージェントは、成功報酬Feeの一部を支払ってもらう「顧客」である。南氏の問題意識・起業の原点が人材市場の非効率性だとしても、一方では誉め称え、もう一方では堂々と顧客を卑下するという二枚舌であることは、ステークホルダー全体からの信頼を失いかねないだろう。


たしかに、人材業界がブラックボックスな面があることは否定できず、また採用手法は常に移り変わるものだが、素晴らしいプロフェッショナルなエージェントは、僕がお会いしただけでも多く存在する。こういったエージェントの需要は、いくらダイレクトリクルーティングが浸透したとしても、決してなくならないだろう。